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4K&8K時代の3DCGアニメ制作についての考察と対応   (記事記載:2019年 1月25日)

 2011年7月24日にアナログ放送が終了して、時代はデジタル&ハイビジョンの時代が到来しましたよね。雅工房も、それに先立つ6年前の2005年にフルハイビジョンCG制作のための高額な設備投資を完了しました。
 そして今また、4Kや8Kと言った映像規格が具体的に動き始めており、実際に一部のテレビ番組で放送され始めています。そこでCG(※)制作において、4Kや8Kの動画制作にどれだけのレンダリング時間がかかるのか、テストを行い比較しました。また、今後の課題についても書き記します。
※注:正確にはCG(=Computer Graphic)よりもCGI(=Computer Generated Imagenary)が望ましいですが、ここではCGと言う表現に統一しています。


1.2K・4K・8K解像度

 「ビデオ撮影による動画」と「3DCG制作による動画」の最も大きな違いは、ずばり時間です。ビデオ撮影ならば、5分の撮影ならば、解像度に関係なく5分で撮影は終わります。しかし、CGはそうはいきません。解像度が変わると、レンダリング時間(※CGの計算時間)が、2倍にも4倍にも10倍にもなり得ます。
 HDが4Kや8Kになることによって、CG納期や見積もり額が大きく変わるので、どのくらいの時間的差異が生じるのかを押さえておくことは、大変重要です。今回はまず、それについての検証をしてきます、
 と、その前にHDと4Kと8Kのサイズの違いについておさらいしておきましょう。話を分かりやすくするため、以下、Full-HD(フルハイビジョン)解像度を便宜的に2Kと記します。2K、4K、8Kの各解像度の大きさは、下記の通りです。

2K=1,920×1,080pixel=2,073,600pixel(約200万画素)
4K=3,840×2,160pixel=8,294,400pixel(約800万画素)
8K=7,680×4,320pixel=33,177,600pixel(約3,300万画素)

 上記の図の通り、
4Kは2Kの縦横2倍ずつの4倍の解像度8Kは2Kの縦横4倍ずつの16倍の解像度と言う事になります。


2.各解像度でのレンダリング時間の相違

 
では、実際に各解像度で3DCGをレンダリングしてみます。比較的「シンプルなCG」と、もう少し「複雑なCG」の2種類の3DCGをレンダリングしてみます。

①シンプルなシーンでのレンダリング時間比較テスト

 まずは、オブジェクトが一つだけで、背景は写真(360°HDR)と言うシンプルな30秒(900フレーム)のシーンから、1フレームだけレンダリングします。雅工房のマスコットキャラクター「ミヤビー」が森の中でたたずむ、下記のシーンです。
 下のCG画像は、2Kの1/6ほどのサイズのSD解像度(※2)100%の大きさです。このシーンを、解像度以外は全くの同条件で、それぞれ2K、4K、8Kでレンダリングします。
※注2:SDサイズは本来720×486pixel(D1)ですが、扁平表示を避けるためこのページでは720×540pixelで表示しています。

レンダリング時のマシンスペック:3.3GHzCPU×6個、32GBのRAM、GeForceGTX750Ti
使用3DCGソフト:LightWave3D/レイトレース及びラジオシティ(モンテカルロ方式)レンダリング
背景:360°HDR画像 ⇒レイトレース、ラジオシティ、HDRについての詳細はこちら。
サイズ的にSD以上のサイズは、このページに納められないので、頭の部分のみ100%サイズで表示します。
2K:42.2秒
4K:2分28秒(148.4秒) ※2Kの3.5倍のレンダリング時間 
8K:8分38秒(518.4秒) ※2Kの12倍のレンダリング時間


②より複雑なシーンでのレンダリング時間比較テスト


 続いて今度は、もっと多くのオブジェジェクトを配置し、背景舞台も(写真ではなく)CGで作り込んだ、より複雑なシーンをレンダリングします。当工房のオリジナルアニメ「ロボットウォーズ」の最終章3話「シンビオシス」の5秒(150フレーム)のシーンの中の1フレームです。
 SDサイズ100%の画像は、下記の通りです。

レンダリング時のマシンスペック:3.3GHzCPU×6個、32GBのRAM、GeForceGTX750Ti
3DCGソフト:LightWave3D/レイトレース及びラジオシティ(モンテカルロ方式)レンダリング
⇒レイトレース、ラジオシティ、HDRについての詳細はこちら。
サイズ的にSD以上のサイズは、このページに納められないので、手の部分のみ100%サイズで表示します。
2K:4分25秒(265.2秒)
4K:9分40秒(580.7秒) ※2Kの2.2倍のレンダリング時間 
8K:26分58秒(1,618秒) ※2Kの6.1倍のレンダリング時間

 以上のように、4倍の解像度なら4倍のレンダリング時間、16倍の解像度ならば16倍レンダリング時間がかかる、と言うことにはならないのです。解像度とレンダリング時間の今回の相関関係をグラフにしました。



 シンプルなシーンでは、解像度が増えた時にレンダリングにかかる時間が3.5倍、12倍と大きくなるのに対して、複雑なシーンでは、比率が2倍、6倍と
相対的にレンダリング時間倍率が緩やかになる(低くなる)傾向であることが分かります。
 しかしながら複雑なシーンは、そもそものレンダリング時間がシンプルなシーンよりも大幅に長いので(今回は2Kで6.3倍)、
絶対的なレンダリング時間は増大し、1フレームあたり4K=約10分、8K=約27分と、それぞれかなりのレンダリング時間を要することが分かります。上記のロボット達の会合シーンは、150フレーム(5秒)のシーンですので、2Kならば約6,300秒(105分=1時間45分)のレンダリング時間がかかりますが、4Kであれば約87,000秒(1,450分=24時間10分)、8Kであれば約152,700秒(2,545分=42時間25分)もかかることになります。5秒のアニメですらこのレンダリング時間ですから、1分(60秒)以上のアニメ制作となると気の遠くなるようなレンダリング時間がかかります。レンダリング途中で(しかも最後の方で)修正などが生じた場合は、気絶しちゃうレベルです(笑)。次の章では、この辺の事も考えてみましょう。

③4Kや8Kへの具体的な対応方法

 ハイビジョンは世に登場した時は「いやあ~、きれいな映像だなぁ~」と思ったものですが、4Kや8Kの映像は、更にきれいで迫力やリアルな臨場感があるのは確かです。先ほどのロボットの頭や手の部分を見ただけでも、2Kと8Kではそのきめ細かさに雲泥の差があるのが分かります。しかし、前章で見たようにCGのレンダリングコストは、尋常でなく上昇することが分かります。ビデオ撮影は、2Kも4Kも8Kも5分であれば5分で終わりますが、3DCGの場合は5分のアニメを計算するのに2Kで48時間(2日)かかっていたものが、4Kだと96時間(4日)とか168時間(7日)とかかかるようになるのです。
 スケジューリングも予算も、2K以前と4K以降では、かなり変わります。何が変わるのか、変えなくてはいけないのかを見てみましょう。

Ⅰ.4K以上のCG制作の内容・方法論
 4K以上に解像度が上がると言う事は、ただ単に、解像度のピクセル数を増やしてレンダリングすれば良いと言う事ではありません。今まで以上に、ポリゴンエッジのきめ細かさ=つまりポリゴン数の大幅な増大が必要になります。2Kではズムーズに丸く見えていたエッジが、4Kや8Kでは角ばって見えるでしょう。同様に、ローポリゴンオブジェクトで済ませていた遠景にも、ミディアムクラスのオブジェクトの作成が必要になるでしょう。またオブジェクトに貼り付けるマッピング画像も、今まで以上に丁寧で細かいデザインでかつビッグサイズのマッピング画像が必要になります。
 と言うように、細かいモデリングや細かいマッピング画像の制作で、作業により時間がかかるようになります。モデリングのポリンゴ数も、マッピングのデータ量も、各段に増えてマシンと人間に具体的な負荷・ストレスがかかります。テレビ番組であれUHDブレーレイのプログラムであれ、ほぼ映画クオリティに近い手間と時間のかかる作業が求められるでしょう。


Ⅱ・設備投資

 4Kや8Kの3DCG動画制作は、上記で述べたように今まで以上の制作時間と手間がかかります。そして、レンダリングテストでも分かるように、今までの数倍から10倍、ないしそれ以上の、尋常でないレンダリング時間がかかります。
 PCの計算速度が上がれば良いですが、PCマシンのスペックも技術革新的に向上には限界があります。PCのスペックの限界をカバーするために(=長時間のレンダリング時間に対処するために)、PCの数(具体的にはCPUの数)を増やして、レンダリングファーム(※レンダリング農場)を増設していくのが現在の最良の方法でしょう。PC増設にはそれなりの資金、そしてレンダリングファーム用PCの場所の確保、そして稼働させ続けるための安定的な大容量の電力も必要です。レンダリングファームをレンタルすると言う手も現在はありますが、予算の規模によってはレンタルは割りにあわないですし、レンタルの手間と費用を考えると、できるだけ自前でファームを構築しておきたいところです。

Ⅲ.CG制作予算
 解像度がSDからHDに代わった時、「制作の手間」と「レンダリングコスト」と「設備投資額」は増えたのに、実はCG制作予算は全く変わりませんでした。しかし、4Kや8Kの3DCG動画制作は、もはや従来通りの予算での制作は不可能です。4K解像度は既に映画クオリティであり、8Kはそれ以上となります。上記で見たように、3DCG制作には手間も時間も設備投資も維持費も今まで以上にかかりるようになり、映画用のCG制作と同等かそれに近い予算見積もりが必要となってくるでしょう。

Ⅱ・スケジュール管理
 上記で色々見たように、「①高解像度対応の3DCG制作の細かさによる制作時間の増大」及び、「②レンダリング時間の大幅な増大」等の様に2K制作とは比較にならない制作期間が必要となります。単に制作スケジュールが伸びるだけでなく、修正対応もかなりきつくなります。途中で生ずる修正内容によっては、納期に遅れが生じる危険性もあります。初期打ち合わせ段階でのより詳細な取り決め、ラフ制作チェック段階でのよりシビアな詰めなどを事前に行い、実制作段階での修正を極力減らす努力が、今後もっと必要になります。


 以上、4Kや8K時代の3DCGアニメ制作について、レンダリングテスト結果を含め、今後起こりうる課題も取り上げさせていだきました。CG制作同業者や映像制作会社のご参考になれば幸いです。